ものとこころの環境整備

夏休みの図書室

2022年08月24日

今、小学生は夏休みの宿題のそろそろ追い込みでしょうか?

そんなことを考えていると、

ある年の夏休みのことを思い出します。


昭和の時代の、

内気な小学生の

とある夏休みのことを。


夏休みに入る前の

一学期の終わりの日、

終業式は、

一学期の成績表をもらうどきどきと、

明日から学校に行かなくていい

という開放感の混じり合った日でした。


昭和ひと桁生まれの異常なくらい厳しい父親が

成績表を待っているという

恐ろしい家路も気にならなくなるくらい、

だんだんと明日からの開放感が満ちて来て、

さて帰ろうかという時。


友達ではないクラスメートが突然、

話しかけて来ました。

「図書室に返却しないといけない本を忘れていたので、返すね」

(え、もう終業式も終わって、

図書室も閉まっているんだけど。。。)

そう、本大好きの私は、図書委員でした。


といっても、

本が好きだとしても

図書委員は特に楽しくもなんともない。


(なんで今?)と思いつつも、

(図書委員なので)仕方なく、

本を受取りました。


さて、そんなやりとりをして、

教室は時間が来たら閉められるし、

明日からは夏休みなので、

担任の先生は早く帰れという感じです。

私も大慌てで教室を出ました。


さて、家に帰り、

恐ろしい父親の洗礼を受け、

ふとカバンの中を見ると、

見たこともない本が入っています。


そう、大急ぎで帰る時に、

図書室へ返さなければならない本を

家に持って帰って来てしまったのです。

明日からは夏休み、

学校に返しに行く訳にも行きません。

目の前が真っ暗になりました。

2学期が始まる始業式まで持っておくしかないのです。


明日から夏休み

という開放感はどこかへ行ってしまいました。

同じく夏休みになる能天気な弟たちが

恨めしく思えます。

次の日からは、憂鬱でなりませんでした。


その頃の私の家は、

サザエさんやまる子の家みたいな平屋でした。

庭がまあまあな広さがありましたが、

庭師がくるような庭ではなく、

両親がそれぞれ棲み分けをして、

好きな花木を植えているような庭でした。


さて、その庭の西北の角に、

子どもの背丈くらいのヤツデの木がありました。

多分父親が植えたのだと思います。

ヤツデというのは、八手と書くように、

まるで人の手の指が分かれているかのような葉をしています。

また常緑樹なので年中青々としています。

天狗が持っているあの葉です。

大きな葉なので、

葉が重なり合っている下は薄暗く

何かが隠れているような気がしていました。


庭の水遣りをする時も、

何かが向うから覗いているようなヤツデの方を見ないように

していました。


毎朝起きて、

あの預かってしまった本の背表紙を見る度に、

なぜか罪悪感に苛まれるようになってしまった私は、

朝になると憂鬱で堪りませんでした。


さて、どうしてその毎朝の憂鬱と、

庭の一角の暗い部分が結びついたのか、

今でもよくわからないのですが、

小学生の私は、

その本をそのヤツデの葉の下の根元に捨てました。


ヤツデの株の中が、

まるでブラックホールのようにどこかへ繋がっているとでも思ったのでしょうか。


暗いヤツデの株の中へ

証拠品を葬った私は、

とても素敵な開放感に満たされました。

確かに、あの本はブラックホールへと旅立って行ったのです。


それから、何日もしないある日の午後、

私と同じく本好きの父親が不思議な楽しそうな顔で、

やって来ました。

「庭のヤツデの下に、

こんな本が落ちてたけど、

小学校の名前がかいてあるから、

あんたが借りたんじゃないの?」


開放感からどん底へ落ちたのは

いうまでもありません。


捨てたはずの証拠品が

まるでブーメランのように私の元へ

戻ってきました。


ヤツデの株の中は、

ブラックホールはブラックホールでも、

何かの意思が働いて、

目的地へ行く

というルールがあるのではないだろうか。


図書委員という責任を全うしなかった私は

許されることなく、

永遠に罪を背負っていかなければならないのではないだろうか。


自分の部屋にある

その例の本の背表紙がとても嫌なものに思えて、

毎晩寝る前には必ず暗い陰鬱な気持ちになっていました。


さて、

二学期になってだったのか、

登校日だったのか、

覚えていないのですが、

私はとんでもない計画を立てました。


その計画とは、

誰もいない図書室に忍び込み、

そっとその本を本棚に返しておくという計画。


図書委員であるし、

本が大好きであるので、

図書室の全容は熟知しています。

(そんなに広い訳でもない)


図書室の鍵は開いていたので、

誰もいない、という訳ではなかった。

そこに用があるふりをして入った私は、

まるで忍びの者のように

そっと本棚にその例の本を置いてきました。

結局、罪を認めることもできず

隠ぺいするという行動をとることしかできなかったのです。



大人になった今思うのは、

なんであそこまで深刻に思い詰めていたのでしょうか。

始業式か登校日に普通にただ返却すれば

どうってことないことだったのに。

しかも返却を忘れたのは私ではないので、

私がそこまで思い詰める必要もなかったのに。


とても内気なおとなしい小学生の私には、

恐ろしいほどの出来事だったのでしょう。


今でも、

夏の終わりの夕立のあとの

埃のような匂いを嗅ぐと、

青々としたヤツデの葉を見ると、

そんな子どものころの出来事を思い出します。


夏休みの図書室









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KANKYOUSEIBILOVE・KAZUMI
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神戸生まれの神戸育ち。
二十数年前から図らずも明石市在住になるも、
神戸れられません。
ものの環境整備から、こころの環境整備まで、徒然に書いていきたいと思います。
そして、趣味の神社仏閣めぐりのことなど。